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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)50号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一) 成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、第三八号証の六、第三九号証、第四七号証、原本の存在及び成立に争いがない甲第五号証、乙第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし三、昭和四二年五月八日本件工事現場を撮影した写真であることについて争いのない甲第五四号証の一ないし五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一、二、第三、第四号証、第二一ないし第二六号証、第四三号証の一、二、甲第五号証により真正に成立したものと認められる甲第三二号証によれば、次の各事実が認められ、右乙第一〇号証の二ないし四、第一一号証の二、三の記載中この認定に反する部分は採用できない。

(1) 中外道路資材は、昭和四二年四月頃、宝塚市から、宝塚市を工事施工者とする兵庫県宝塚市小浜所在の宝塚市道逆瀬川米谷線新大橋の伸縮継手改良工事(本件工事)を請負うことになつたが、同社は宝塚市から工事を指名される資格がなかつたため、右資格のある松下組を元請業者とし、松下組から下請する形式を採ることになり、同年五月一日、松下組から中外道路資材に対し、本件工事が発註された。

(2) これより先、中外道路資材は、本件工事に使用する伸縮継手として原告が研究開発した合成ゴムの下面に鋼板を貼りつけた構造の弾性伸縮部材(商品名ラバトツプジヨイント)を用いることにし、同年四月二八日株式会社安原製作所及び合資会社大阪角一商店に発註して、ラバトツプジヨイント(当時は「ガイド板」と呼んでいた。)を製作させると共に、右同日右安原製作所に発註して、ラバトツプジヨイントに設けた凹孔の位置と一致する床版の位置に基礎ボルト(アンカーボルト)を植え込むために用いる治具(関係者は「レベリングサポーター」と呼んでいた。)の材料として、縦枠用の長さ約一・八メートル、横幅約〇・二四メートルで、縦二列に数個の透孔を配設したチヤンネル鋼製のもの一個、横枠用の長さ約一・七ないし一・八メートル、横幅約50mm×50mmのアングル鋼製のもの二個を一組とする鋼材を製作させ、あわせて多数の基礎ボルトを製作させた。この縦枠は、下面板(水平部分)に、ラバトツプジヨイント締着用の基礎ボルト(アンカーボルト)を固着させるための数個の透孔を、ラバトツプジヨイントの凹孔の位置に一致する間隔に縦二列に配設したものであつた。

(3) 本件工事は、道路の片側宛二回にわけて行われたが、第一回の工事は、同年五月八日午前から翌九日の夕方まで施工され、次いで第二回の工事は、同月一二日に施工された。

本件工事は、まず、橋道継目部のコンクリート床版を、ラバトツプジヨイントの幅より大きく斫り取り、このコンクリートの切欠部にコンクリートを流し込むための木製の型枠を設置した後、本件工事現場において、治具材料として持込んだ前記縦枠用のチヤンネル鋼製のもの一個の両端よりやや中央寄りの縦フランジ(垂直壁)の上面に横枠用のアングル鋼製のもの二個をそれぞれ一個宛直角に接触交叉させて、縦枠と横枠をその接触部で溶接して一体とし、縦枠に設けられた透孔にナツトを螺着した基礎ボルトを通して、これを縦枠に固着し、別紙図面(二)に図示されたとおりの治具として完成したうえ、この治具を横枠の両端部により前記道路の舗装層の上面に支持されるように載置し、更に、基礎ボルトを床版の鉄筋と溶接して固着し、速乾性のPEコンクリートを治具の縦枠の下面板の高さまで打設し、コンクリートが固化した後、治具、次いで型枠をそれぞれ取り外し、その上面にラバトツプジヨイントを据付ける順序で行われた。

なお、本件工事のうち、コンクリートの斫り作業や基礎ボルトと床版の鉄筋との溶接は松下組が、また、コンクリートの打設は、中外道路資材が日本道路興業株式会社を下請業者とし、同社は、更に、近畿道路施設を下請業者として施工したが、前記治具の据付け、取り外しは、すべて中外道路資材が施工した。

(4) 本件工事に使用された前記治具の縦枠に二列に設けられた基礎ボルトを挿入するための透孔の位置は固定されていて、それぞれの列の向き合つている透穴の横の間隔を調節できないものであり、その間隔は、本件工事現場の橋道継目部の工事時点における床版の間隔と、橋道上に打設されたコンクリートが温度の変化により伸縮することを考慮して決められたものであるから、前記治具は本件工事にのみ使用でき、それ以外の場所では使用することができないものであつて、本件工事終了後に廃棄された。

(二) 審決は、本件工事は、昭和四二年三月一七日から同月三一日までの間に施工され、かつ、本件工事において本件考案と実質的に同一の基礎ボルトの位置規整枠(治具)が公然と使用されたものと認定し、成立に争いのない乙第一ないし第九号証及び前掲乙第一〇号証の二ないし四、第一一号証の二、三には、この認定に合致する記載の存することが認められる。

しかしながら、本件工事の施工時期については、前記(一)(3)認定のとおり、同年五月八日から同月一二日までの間に施工されたものと認められ、前掲甲号各証によれば、右認定は動かし難いところである。

また、本件工事において本件考案と実質的に同一の基礎ボルトの位置規整枠が用いられたとの点については、前掲乙第二ないし第四号証、第七ないし第九号証は、その方式及び趣旨により明らかなとおり、いずれも被告会社が右乙号各証の各一部をなす別紙(三)と同一内容の図面及び説明書を添付して、宝塚市の本件工事の現場監督であつた森泰男、下請業者であつた近畿道路施設(現商号 キンキ道路株式会社)及び同社従業員であつた銅山輝男に対し、本件工事において中外道路資材の代表取締役である原告が添付の図面及び説明書に示す基礎ボルトの位置規整枠を提供し工事を施工したことの証明を求め、前記森泰男らにおいて、「上記の通りに相違ないことを証明する。」との文言の下に記名又は署名捺印するという経過で作成された文書であつて(但し、乙第七ないし第九号証に添付された図面及び説明書は、別紙(三)とは若干相違しているが、両者の実質的な構成が異なつているといえる程度の差異ではない。)、証明者がその記憶に基づいて、記憶どおりの治具の構成を書面に記載したものとは認め難く、更に、前掲乙第一〇号証の二(特許庁の口頭審理手続における証人森泰男の調書)、第一〇号証の三及び第一一号証の二(同証人川染信二の調書)、ならびに第一〇号証の四及び第一一号証の三(同証人銅山輝男の調書)には、本件工事に使用された治具は、相当の間隔をもつて平行する二個の縦枠の両端よりやや中央寄りに二個の横枠を直角に交叉させ、縦枠にそれぞれ縦一列に多数の透孔を設け、縦枠の間隔を調整可能にした規整枠である旨の供述記載部分が存し、これを図示した図面が添付されていることが認められるが、これらの供述記載部分を詳細に検討すると、前記各証人は、宝塚市の現場監督(森泰男)あるいは下請業者である近畿道路施設の従業員(川染信二、銅山輝男)として、本件工事現場に居合わせた者であるが、直接治具を組立て、現場に据付く工事に従事したものでなく、その記憶も、現場で調整できるものでなければ不都合であるから、前記のような縦枠二本を調整可能にしたものだと思うということをよりどころにするものであつて、正確な記憶に基づいて前記のような供述をしたものであるか疑わしく、前掲甲号各証に照らしても、到底措信することができない。そして、ほかに前記(一)の認定事実を覆すに足りる証拠はない。

(三) 以上の認定事実によれば、本件工事は昭和四二年五月八日から同月一二日までの間に施工されたが、本件工事に使用した、伸縮継手(ラバトツプジヨイント)に設けた凹孔の位置と一致する床版の位置に基礎ボルトを植え込むための治具は、別紙図面(二)に図示したとおり、縦二列に伸縮継手の凹孔の位置に一致させて数個の透孔を配設したチヤンネル鋼製の幅広い一個の縦枠の両端よりやや中央寄りの縦フランジ(垂直壁)の上面にアングル鋼製の二個の横枠をそれぞれ一個宛直角に接触交叉させ、縦枠と横枠をその接触部で溶接して一体とし、縦枠に設けられた透孔にナツトを螺着した基礎ボルトを通して、これを縦枠に固着し、横枠の両端部を舗装層の上面に支持させるようにしたものと認めるのが相当である。

そこで、前記本件考案の要旨と前記認定事実に基づき、本件考案と本件工事に使用した治具とを対比すると、両者は、縦二列に伸縮継手の凹孔の位置に一致させて数個の透孔を設けた縦枠の両端と中間部の間に二個の横枠を一個宛それぞれ直角に交叉させて一体とし、該透孔にナツトを螺着した基礎ボルトを通し、これを縦枠に固着し、横枠の両端部を舗装層の上面に支持せしめる基礎ボルトの位置規整枠である点において一致するが、本件考案においては、所要間隔をもつて平行する二個の縦枠2、2に、それぞれ前記透孔9、9……を配設し、二個の縦枠2、2の間隔を調節可能にして該縦枠を二個の横枠1、1に組合せた構成であるのに対し、本件工事に使用した治具は、一個の幅広い縦枠に、前記透孔を配設し、前記二個の横枠を縦枠との接触部で溶接して固定した構成である点において相違することが明らかである。

そして、前記構成上の相違点に基づき両者の作用効果上の差異を検討すると、成立に争いのない甲第一号証の二によれば、本件考案は、二個の縦枠の間隔を調節可能とすることにより、伸縮継手を締着させるための基礎ボルト10をその位置が当該伸縮継手に設けられる凹孔と完全に一致するようにそのつど調節してコンクリート床版内に埋設することができるのに対し、本件工事に使用した治具は、一個の縦枠に縦二列の透孔を配設したものであつて、その間隔を調節することができないから、本件考案の右作用効果を奏しえないものであり、また、本件考案においては、縦枠2、2を横枠1に組合せたものにすぎないから縦枠2、2の取り外しが容易であり、縦枠2、2を横枠1から外すと、流し込んだコンクリート面が外部に露出するから簡単に補修することができ、伸縮継手の取付面として精度の高い平面度、高さを得ることができるのに対し、本件工事に使用した治具は、縦枠と横枠とが溶接して固定され、しかも縦枠が幅広い一個の鋼材であるためコンクリート床版との接着面積が大きく、縦枠を横枠から外すことがきわめて困難であつて、本件考案の右作用効果を奏しえないものである。

そうであれば、本件工事に使用した治具は、本件考案と構成を異にし、かつ右構成上の相違により、本件考案の作用効果を奏しえないものであつて、本件考案とは異なる技術的思想の創作であるといわなければならない。

したがつて、本件工事において本件考案と実質的に同一の伸縮継手用基礎ボルトの位置規整枠が公然と使用されたことを理由として、本件考案はその出願前に公然実施をされた考案であるとした審決の判断は誤りであり、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消されるべきである。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当として認容する。

〔編註〕 本件考案の要旨は左のとおりである。

所要間隔をもつて平行する二個の縦枠2の両端或は両端とその中間部の上に横枠1を直角に交叉し、縦枠間の間隔を調節可能にして縦枠を横枠に固定し、鋼板にゴム板を貼着した弾性板13の凹孔14に一致して配設した縦枠の透孔9に、ナツト11を螺着した基礎ボルト10を通し、ナツト12にて縦枠に固着し、横枠の両端部を舗装層の上面に支持せしめる基礎ボルトの位置規整枠。

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